第一水産大物課、 だった
採用試験は事務所のテーブルを持ち上げる事。午前12時出社、セリ終了後の朝8時半終了。太陽を見ない生活。横たわる数百のまぐろの列と供に夜を過ごす。
初日に「手鉤」を渡される。忍者の鎖カマのような物だ。熟練社員は長短2本持つ。それでカップヌードルのセロファンも開けるし新聞もめくる。
「絶対手から離すな」とお達しを受けたが、素人には無理、ふっと置いてマグロの位置を変え振り向いた、消えていた。真っ白な手鉤の手持ち部分は新人の証、皆が虎視眈々と狙っている。
午前3時、桜吹雪の入墨をランニングシャツから覗かせ、一升瓶片手に日本刀と斧をさげたおっさんに「邪魔だーこのクソガキ」とド突かれる。彼らはマグロの頭を切り離し尻尾に切り目をいれ仲買が肉質を確認出来るように準備する職人。重層な過去を背負う人が多い。
セリ後、中卸にマグロを配達。指定場所に置いて帰るが、数十分後「ない」と電話「盗まれたな」と係長。自分の1ヶ月の給料より高い。
喧嘩と、(皆、手鉤を持っている)事故、毎晩救急車が場内に入ってくる。
見知らぬ男に呼ばれいく。落とされたマグロの後頭部切り口から円錐上の肉を抜き出し、ベルトに差した醤油をかけて食べる。「天肉だよ」 空腹もあったろうが、衝撃的な舌触り、味。
クタクタで朝日新聞本社が見える駐車場に止る長距離トラックに忍び込みつかの間眠る。ふいにドアが開き朝食を持った運転手が帰ってきた。「いいよ、そのまま寝てろ、」 男はドアを閉めて去っていった。
遅れても貝汁を温めて待っていてくれる社食のおばちゃん。金を忘れた吉野家で払ってくれた見知らぬ仲買。台車から落としてしまったマグロを瞬時に乗せてくれる通りがかりの男供。市場食堂の面々。
1年後、入墨はニヤリとするようになり、商売仇は冬の夜、穴子の骨の素揚げをドラム缶の焚き火の傍で振舞ってくれた。
カーブを曲がって進入してくる長距離トラックの荷台から大きな箱がずり落ちてくる、「おい、チビ」 その声ですべてを悟り、脱兎のごとく走り手鉤で箱の角をひっかけスイング。箱を物品倉庫の下に滑り込ませた。
戦利品 うなぎの肝500本。
喧騒、怒号、冷凍庫から漏れ出す白煙、排気ガス。裸電球、血飛沫。
「やったな おい」と声をかけられたその時ちょっと大人になった気がした。

コメントありがとうございました
食に関わる仕事ではないんです 事務というほど大した事でもないのですが、一応机に9-5時で座っています
後10分で5時なので帰り支度をしています 笑
食べるのが好きなだけなのでそれが職業となってしまうと楽しい事ばかりではなくなりそうで、、返ってそうでないということで飽きもせず色々やってるんだと思います
ヒントも何も"鮮やかで上質、それに奥深い" とかそんな事とは無縁な、健康診断でいつも小言を言われるただのおっさんです
Posted by: . | November 04, 2009 at 04:52 PM
Bayareaさま、
いつも鮮やかで上質、また奥深い食通の日常を楽しんで拝見させていただいております。
ここ数年来の疑問なのですが、食にかかわるお仕事をされているのでしょうか?
どのような方かなと想像しつつ拝見するのが楽しいのですが、ちょっとヒントを頂きたくコメントさせていただきました。
一ファンより
Posted by: buhi | November 04, 2009 at 01:09 AM